精神医学の基礎知識

気分が良くても要注意
精神科や心療内科で治療を受けられる症状の一つに、双極性障害があります。双極性障害はかつて躁うつ病と呼ばれていた症状で、気分が極端に高揚する時と落ち込む時が繰り返されるのが特徴です。ただし一日のうちに目まぐるしく気分が変わるのは双極性障害ではなく、普通は数週間から数か月ぐらいの周期で入れ替わるとされています。たとえば朝起きた時は無気力で頭が重いのに、午後遅い時間になるほど元気が出てくるというのは、単なる生活習慣の問題かもしれません。もちろんうつ病が原因である可能性はあるので、心配ならば専門家に相談してみることをおすすめします。躁状態の時には本人は気分が良く、何でもできるような気がしますが、実際には仕事がうまくできなかったり、人間関係を損なったりすることがあります。その理由として奔逸という現象が挙げられます。奔逸とは、もともと馬などが勝手な方向に逃げていく様子を表す言葉ですが、精神医学では観念があちらこちらに飛んで、まとまりがつかなくなる状態を指します。たとえば商品の仕入れの話をしていたはずが、取引先の社長の噂になり、社長が着ている洋服の話になり、最近のファッションへの批評になるといった具合です。次から次へと新しいアイデアが浮かんでくるけれども、論理的な筋道を立てられないので、まとまった結果を出すことができなくなります。友人同士で駄弁っているときには問題がなくても、何かの目的を達成したいときには障害となりうる症状です。あまりにも考えが逸れすぎるときには要注意と言えるでしょう。
奔逸は精神活動が活発になりすぎることから起きると考えられ、そういう意味ではうつ状態より楽かもしれません。ただし正常な状態ではないことを自覚していないと、予期せぬトラブルに巻き込まれる可能性もあるため気をつけましょう。また奔逸とまぎらわしい状態に、統合失調症などで見られる支離滅裂があります。奔逸は観念が相互に関連のある方向へ逸れていくのに対して、支離滅裂は全く関連のない方向へ逸れてしまうのが特徴です。そのため奔逸と違って、形の上だけでも会話が成立しなくなります。どちらも精神科の守備範囲になりますが、診断は難しいので素人が安易に決めつけることはできません。いずれにせよ円滑な社会生活を送るためには、適切な治療を受ける必要があるでしょう。双極性障害の場合、躁状態では病気という自覚が持てないのが普通です。うつ状態に入った時、初めて精神科や心療内科を受診し、うつ病と診断されることも珍しくありません。しかしうつ病と双極性障害の治療法は異なり、抗うつ薬を服用したせいで躁状態がひどくなったり、治ったように見えても再発を繰り返したりするケースがあります。そこで初めて双極性障害と診断されることになります。こうした無駄を省くには、自分自身の状態をしっかりと把握し、医師に包み隠さず伝えることが大切です。精神疾患の治療には時間がかかることを認識し、一時的に改善しても自己判断で服薬をやめないようにしましょう。それほど症状が重くなければ、薬を使わなくても治療できることが少なくありません。
精神病に見られる症状

こころの病気を知ろう

対応がいる心の病
